どん底に大地あり

2023/12/31 Sun 21:06

「どん底に大地あり」は1945年8月9日、長崎に原子爆弾が落とされた時に被爆した永井隆先生のお言葉です。永井先生は長崎大学医学部の医師であられましたが、原子爆弾にて奥様を亡くされ、自らも被爆しながら救護活動に当たられました。そして白血病を発症されます。その後は病室兼書斎の如己堂にお子様と住まわれていました。私は若い頃、永井先生の「この子を残して」を読んでとても感動しました。

私は医学部の学生時代から(思い返せば多分高校生の頃から)、「自分に何も頼るものが無くなっても幸せを感じる心を持てたら、それが本当の幸せだろう」と思い、そのような心を探しています(まだ探求中です)。
この「自分に何も頼るものが無くなる」状況は、「病いの時」であり、その最たるものが「死ぬ時」かもしれないと思い緩和ケアを行っております。

数年前にNHKの朝の連続テレビ小説「エール」で主人公の祐一(モデルは作曲家の古関裕而)は、失意の底にいながら、原爆投下後の長崎で「どん底に大地あり」という言葉に触れ、そこから「希望」を見出し、「長崎の鐘」を完成させます。永井医師をモデルとした役を「エール」で演じた吉岡秀隆さんはインタビューで、「『どん底に大地あり』は、今の世の中にも伝えたいメッセージ」と語っています。
私も朝ドラ「エール」で「どん底に大地あり」という永井先生のお言葉を知りましたが、私がずっと追い求めている「自分に何も頼るものが無くなっても幸せを感じる心」のことかもしれないと感じています。

人は誰でもいつか「どん底」を味わう。いやもしかするとすでに「どん底」にいるのかもしれないのに、それを見ようとも気づこうともあえてしていないのかもしれない。見ないために日常の忙しさや娯楽でごまかしているのかもしれない。
しかし、いつか人生の終わりに味わわなくてはならない。とすれば、その前に「自分に何も頼るものが無くなっても幸せを感じる心」を持てたら…。
新しい年(今年は年男です)が始まります。
この「本当の幸せ」を探してまた一歩一歩みなさまと歩んで参りたいと思います。


未分類 | コメント(0)

愛する人を亡くした時

2023/12/15 Fri 23:03

「愛する人を亡くした時」という本があります。
私が大変尊敬する日野原重明先生も翻訳に関わった名著です。
内容は四つの章から構成されています。

愛児を失うと、親は人生の希望を奪われる
配偶者が亡くなると、ともに生きていくべき現在を失う
親が亡くなると、人は過去を失う
友人が亡くなると、人は自分の一部を失う

先日、私より少しお若い女性の方をご自宅で看取りました。
癌が進行し、これ以上は苦しい治療はしたくないと、私のこのブログを読まれてたんぽぽ診療所に2年ほど前においでくださいました。
当初はご自身でお車を運転されて通院されていましたが、癌が進行するにつれ、通院が困難になってきました。
それでも彼女はお仕事を続けながら懸命に生きておられました。私も必死に緩和ケアに務めました。
しかしご自宅から出ることが難しくなり、在宅診療に切り替えました。

最期の日、お昼にお伺いした私に「先生、ありがとう」と声にならない声で話してくださいました。
そしてその日の夕刻、ご家族に囲まれながら、ご自宅でご逝去されました。

翌日、往診に車を運転していると、彼女のことが思い出され、強い喪失感に襲われました。

「友人が亡くなると、人は自分の一部を失う」(「愛する人を亡くした時」より)

たんぽぽ診療所にお車で通われていたころからのお付き合いなので、「友人」の一人にしていただけるかも。
「友人」として、もっと生きていてほしかった…。


未分類 | コメント(0)

悲しみ

2023/12/02 Sat 23:32

「苦しみは精神の一部しか占めないことが多いが、悲しみは一層生命の基盤にちかいところに根をおき、したがってその影響は肉体と精神全体に広がって行く。」(「生きがいについて」より)

まだ40歳代の女性をご自宅で看取りました。
癌の末期でしたがその病状からは信じられないほど穏やかな方でした。
しかし病気の進行は止まってくれなくて、最期の時が訪れてしまいました。
ご主人様は黙って必死に悲しみに耐えておられます。
お子様は号泣されています。
私はこみあげてくる涙をこらえることができませんでした。

8年前、私が父を看取った時のこと。
冬の朝、父が息を引き取った時、「悲しみ」にすべてが覆いつくされてしまいました。
そしてその夜、父の前で号泣しました。

「ひとたび生きがいをうしなうほどの悲しみを経たひとの心には、消えがたい刻印がきざみつけられている。
それはふだんは意識にのぼらないかもしれないが、
他人の悲しみや苦しみにもすぐ共鳴して鳴り出す弦のような作用を持つのではなかろうか。」(「生きがいについて」より)

未分類 | コメント(0)
 | HOME |