共に悲しむ涙
2021/10/20 Wed 21:27
私の好きな作家に遠藤周作がいます。(別に私と同姓だから好きというわけではないですが…)
遠藤周作が自ら病いで入院されていた時の事を書かれた文章です。
「その日の黄昏である。夕陽のさしこまぬ影に椅子をもち出して本を読んでいた私はふと目をあげた時一つのあまりに切ない光景をそこに見た。男の若い細君がこちらに背を向けて、夫の手を握りしめているのである。その時、私の心には今日、掃除婦から聞いた話がうかびあがってきた。「今日ね、先生があの奥さんにもうご主人は駄目だって言ったんでねえ」
(中略)私の心を強く衝いたのは彼女が夫の手を固く握りしめていたことである。夫の手を握りしめることによって彼女が死をあと数日にひかえた彼の苦悩を共に背負おうとしていたことである。」
先日、たんぽぽ診療所から癌の末期の男性のご自宅へお伺いしました。もう病状がひどく、あと数日と思われました。横たわるご主人のベッドサイドで診察を終えた私にご主人の足元に立っていた奥様は「(主人は)毎日毎日弱っていく。この人いなくなったら、私は天涯孤独になっちゃう…」と泣きながら訴えます。私は一言も返事ができず、思わず私の左手で奥様の手を触り、私の右手は横たわるご主人様の手を握っていました。お二人の手と手をつなぐように…。
すると、私の診察に立ち会ってくださっていたすずらん薬局中吉田店の薬剤師の先生がすすり泣く声が聞かれました。薬剤師の先生は、在宅診療の後いつもご主人様のお薬を薬局に取りに来られる奥様のお話をよく聴いてくださっていました。
あの時、私はご夫妻の手をつなぐことしかできませんでした。しかし薬剤師の先生は共に悲しむという涙を流してくださいました。共に…。
遠藤周作が自ら病いで入院されていた時の事を書かれた文章です。
「その日の黄昏である。夕陽のさしこまぬ影に椅子をもち出して本を読んでいた私はふと目をあげた時一つのあまりに切ない光景をそこに見た。男の若い細君がこちらに背を向けて、夫の手を握りしめているのである。その時、私の心には今日、掃除婦から聞いた話がうかびあがってきた。「今日ね、先生があの奥さんにもうご主人は駄目だって言ったんでねえ」
(中略)私の心を強く衝いたのは彼女が夫の手を固く握りしめていたことである。夫の手を握りしめることによって彼女が死をあと数日にひかえた彼の苦悩を共に背負おうとしていたことである。」
先日、たんぽぽ診療所から癌の末期の男性のご自宅へお伺いしました。もう病状がひどく、あと数日と思われました。横たわるご主人のベッドサイドで診察を終えた私にご主人の足元に立っていた奥様は「(主人は)毎日毎日弱っていく。この人いなくなったら、私は天涯孤独になっちゃう…」と泣きながら訴えます。私は一言も返事ができず、思わず私の左手で奥様の手を触り、私の右手は横たわるご主人様の手を握っていました。お二人の手と手をつなぐように…。
すると、私の診察に立ち会ってくださっていたすずらん薬局中吉田店の薬剤師の先生がすすり泣く声が聞かれました。薬剤師の先生は、在宅診療の後いつもご主人様のお薬を薬局に取りに来られる奥様のお話をよく聴いてくださっていました。
あの時、私はご夫妻の手をつなぐことしかできませんでした。しかし薬剤師の先生は共に悲しむという涙を流してくださいました。共に…。
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